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Ib フレグランス メアリー
きらめき輝く黄色いバラと共に 舞い散るクリスタルアロマティックノート
きらきらと光を帯びたシトラスが、凛としたライラックと響き合い軽やかに香り立つ。 Grapefruit, Lemon Freesia, Heliotrope, Lilac, Leafy Green, Yellow Rose Musk, Amber, Cedarwood
商品サイズ:86mm×55mm×29mm この商品のレビュー
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イヴ、ギャリーに続きメアリーのフレグランスにもレビューを投稿させていただきます。
相変わらずこのような香水はほとんど使用したことのない初心者のため、レビューが分かりにくかったり説明に不備があるところなどあるかと思いますがどうかご容赦ください。 まず箱からはそこまで香りはしません。僅かに香るのはフローラル系の華やかだが甘酸っぱい香りです。おそらくFreesia(フリージア)かと思われます。奥からわずかにバニラ系の甘さも感じますが、こちらはギャリーのものとは違い軽めな香りです。Heliotrope(ヘリオトロープ)のものでしょうか。 箱を開けるとフローラルな匂いが一気に漂います。先ほどまでよりも澄んだ香りです。おそらくLilac(ライラック)でしょう。 瓶の外見はイヴ・ギャリーとほぼ変わらず。香水の色は後ろに白いものを置くと確かに黄色かな?と分かる程度のとても薄い黄色です。 つけてみると先ほどまでは香っていなかったGrapefruit(グレープフルーツ)の少し苦みのあるシトラスの香りがたち、その後続けざまにさわやかなLemon(レモン)へと変化していきます。2つの柑橘系の香りの中、ほんのりとフローラルが香っています。箱を開けたときに感じたのと同じライラックの香りです。 やがてシトラスをバックに甘く粉っぽい香りが立ち始めます。ヘリオトロープのバニラにも似た香りです。ともすればしつこい甘さになるだろうその香りを軽やかにしているのはフリージアの甘酸っぱさでしょうか。ふわりと漂うLeafy Green(リーフィーグリーン)の若葉のような香りが外を何も知らない少女の無邪気さを表しているかのようです。 やがて中心に表れるのがYellow Roseの香りです。ひときわ存在感のある大輪の黄色い薔薇はただそこにあるだけですべての香りを従わせていきます。まるであの美術館でゲルテナ最期の作品、妹として遊びまわるメアリー自身のようです。 しかしその香りもやがてラストノートであるMusk(麝香)の香りに次第に覆われていきます。 ヘリオトロープとはまた違う甘く粉っぽい香りはまるで眠る前のひと時のような甘美さを纏っています。そこに次第にAmber(アンバー)の落ち着いた甘い香りとCederwood(シダーウッド)の木の香りが現れて黄色い薔薇を覆っていきます。それはその薔薇が偽物であることを隠すかのようです。最初の爽やかさや無垢さはそこにはありません。 最後に残るのはただ官能的で蠱惑的な甘さと一抹の淋しさを思わせるスパイシーな香りだけ。しかしどこかその甘くスパイシーな香りに最初のシトラスの幻影が見えます。 溌溂とした最初のシトラスの匂いとは全く違うにも関わらず、確かに其処にいた彼女を思い起こさせるラストノートです。 ラストノートは全て『メアリー』という一人の少女に向かいながらも、人によって色々な側面を嗅ぎ分けさせられる香りに仕上がっています。 まず蠱惑的な眠りの前のひと時の香りはゲルテナの世界へ誘う「ようこそゲルテナの世界へ」の無邪気な残酷さ。 次に模して造られたシトラス風の香りと幻惑的な甘さ、そして外を連想する木の香りはイヴからレモンキャンディを奪い彼女の家族となる「いつまでも一緒」。 そしてどこまでも霧がかかったように広がる不透明な甘さは出口のない美術館を彷徨う一人の無力な少女の「ある絵画の末路」。 最後に少し粉っぽい香りとスパイシーさから連想させられる煙るような香りと甘い残り香は暗い部屋の中友達になりたかった人の前で燃え尽きていく「再会の約束」あるいは「片隅の記憶」「忘れられた肖像」。 メアリーというどの面を切り取るかによって印象が全く変わるキャラクターが、香りのどの部分を感じようとするかによって全く違う表情を見せるラストノートによって見事に表現されています。 またイヴとはシダーウッド・ギャリーとはアンバーの香りを共通としながら、二人に使われているパチュリーは使われていない部分も個人的に素晴らしいです。 パチュリーの香りはエキゾチックやオリエンタルと評されるのと同様に造花の薔薇には必要でないものである「大地や土をイメージさせる」とも評されるためです。 また、パチュリーの香りがない分麝香やアンバーの香りが地に足を付けることなく漂い続け実体を持ちません。ただただ2つに共通する古今東西の人々を魅了した貴重で蠱惑的な香りが靄のように立ち込め、シダーウッドの香りがただ匂いを嗅いだ人にここに居ようと語りかけてきます。 ミドルノートに使われているヘリオトロープにはギリシャ神話のクリュティエとアポロンのエピソードがあるそうです。 太陽神アポロンに恋した水の妖精クリュティエは交際を始めるもののアポロンに浮気され、浮気相手の父親にそれを密告することで二人を別れさせました。しかしそれが原因で彼女自身もアポロンに振られてしまいます。その後、来る日も来る日も大空のアポロンを眺め続けたクリュティエは9日後にヘリオトロープに姿を変えてしまったそうです。そこからヘリオトープの花言葉は「献身的な愛・崇拝・忠実・私はあなたを見つめる」になりました。 外の世界に憧れ続け、何年間も外の世界を見つめ続けていたであろうメアリー。 ギャリーを心壊させてイヴと二人で外に出ようとしたメアリー。 しかし「いつまでも一緒」エンド以外では外に出ることは叶わず、そのエンドでも決してイヴ自身に選ばれたわけではないメアリー。 香水に使われている一つの花に過ぎませんが、とてもメアリーに合う花ではないかと思います。 またヘリオトロープという花はギリシャ語で「太陽に向かう」という意味があるそうで、クレヨンで描いた偽りの太陽ではない本物の太陽の下を夢見た彼女のための花ではないでしょうか。 総評として、最初は爽やかで苦みがあるシトラス、そこから甘さと清涼感のあるフローラル、最後はムスクを中心とした甘さとシダーウッドのスパイシーな香りととてもバランスのいい香水です。 そしてこのバランスはギャリーのものと同じくシプレ系に分類される香水でしょう。 絵に描いたような美少女であるメアリーの香りが美の女神の生誕地を冠したものであるというのも個人的な評価ポイントになりました。 私自身はシトラスの香りが苦手なのですが、グレープフルーツの苦みと奥から漂うライラックのおかげで苦手意識を持たずにつけることが出来ました。 またラストノートもムスクの甘い香りが苦手な家族に嗅いでもらったところシダーウッドのおかげか軽やかで良い匂いと言われました。 靄に包まれたようなという表現を使いましたが、そのおかげで好き嫌いの出にくい誰にでも使いやすい匂いに仕上がっていると思います。 どの時期・どんな服装でも合わせやすいのではないでしょうか。 ラストノートがギャリーの香水よりも相当ほのかなので手首や首元などにつけてはっきりと香らせるほうがいいかもしれません。 個人的にはIbの3種類の香水の中で一番使いやすい香りだと思います。
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